定点観測:コラム|COLUMN

〈Rコモンズ〉のソーシャル・シェア


山形市七日町。10年前に廃業した木造旅館・三沢旅館が、東北芸術工科大学で建築を専攻する大学院生とOBアーティストによって、シェアアパート『ミサワクラス』に生まれ変わったのは2年前の春である。『ミサワクラス』は建物の名称だけでなく、〈三沢〉旅館に〈暮らす〉プロジェクトであり、また大学外にある学外ゼミ的な〈クラス〉ルームでもある。
ミサワクラスは〈シェア〉をテーマに建築とアートが融合した一種のインスタレーションともいえる。個室の集合体であり、テンポラリーな滞在空間である〈旅館〉は、入居するアーティストに「作品としてのコミュニティーは可能か?」というチャレンジの契機を与えた。
彼らは年2回のオープン・ハウスを開催し、観客をアパート内に招待して、さまざまな〈シェア〉のアイデアやプロジェクトのドキュメントを見せる他、2009年10月には、『山形国際ドキュメンタリー映画祭』の海外プレス向けドミトリー(宿泊所)『アジアハウス』を、隣接する空きビルにオープンさせて注目を集めた。リノベーションはハード/ソフトの両面で、入居メンバーを入れ替えつつ、現在も継続中である。

ソーシャル・ネットワークの時代にいささかアナログすぎるミサワクラスの島宇宙。しかし、TwitterやFacebookの〈つながり〉が世界を席巻するなか、東北の地方都市の、小さなオフライン空間の実験的共有は、地域活性化/シェア/ハイブリッド/インキュベーション/ユニオン等々、いくつもの文脈で語られ、当人たちの予想をこえた有機的なブリッジを生んでいる。
2010年の春には、同じエリア内にある花小路の元ホテルビルに、ミサワクラス2号棟となるシェアハウス『花小路トランク』が誕生し、6名があらたに入居した。これで現在、七日町界隈で活動する東北芸術工科大学の学生・卒業生は合わせて18名。彼らは相互扶助的な関係を保ちながら、七日町に一種のクリエイターズ・ヴィレッジを形成しつつある。
また、同じエリアにある『山形市立第一小学校旧校舎』が耐震補強工事を経て、山形のものづくりを支援するデザインセンター『山形まなび館』としてリニューアルした。指定管理者に大学OBのデザイン事務所が採択され、ミサワクラスと花小路トランクから4名がスタッフに採用された。

彼らは施設内のギャラリーやワークショップの企画や、喫茶室『穀雨カフェ』の運営を任されており、2つのシェアハウスは山形まなび館を拠点に、体験講座や地元クラフト作家の展示、規格外野菜の販売、街中観光促進のためのアクションプラン提案など、地域に密着したさまざまな事業を展開している。

『Rコモンズ』は、このように七日町でコングロマリット化するクリエイター集団の関係図を可視化するウェブであると同時に、ミサワクラスからひろがったこのコミュニティーの包括的な名称でもある。〈R〉は創設期に彼らの活動をハード面からサポートした『東京R不動産/山形R不動産』からの引用であり、〈コモンズ(共有地)〉には、七日町エリアそのものをクリエイションためのフィールドとして〈シェア〉していく、という意味が込められている。
ウェブ版の『Rコモンズ』は、そんな彼らのライフスタイルが垣間見えるユニークなサイトだ。

「12人は『ミサワクラス(旧三沢旅館)』で、6人は『花小路トランク(旧ホテル穂積)』で、オーガニック&ジャンクなアートライフを満喫中。ハタケチガイの果物を、ざくざく刻んでお鍋に入れて、グツグツとろとろと煮込んでいくような山形発のアート・ジャムは、若気の至りの蜜月でしょうか?いやいや、これが意外に硬派なバナキュリズム。『Rコモンズ』では、そんな彼らの暮らしぶりを、随時公開していきます。」(Rコモンズ)

共同キッチンの隅にあるギャラリーで、メンバーが順番に個展を開催する『三角コーナー』(入居者以外はウェブで遠隔鑑賞)、主に農業分野へのデザイン受注によって家賃収入を賄う『家賃0円計画』などのコンテンツは、地方都市に暮らすクリエイターたちのサヴァイバルが軽やかに表現されている。

2010年に『NIPPON ARTNEXT』(後藤繁雄+宮本武典プロデュース)に出展した作品『外苑ピクニック』は、ミサワクラスのキッチンテーブルをそのまま東京に移設し、山形県産の野菜を使った定番カレーを全員で調理し、オープニングに自分たちだけで食べて楽しむというものだった。その後、Rコモンズの展示室は、在東京の山形出身者コミュニティーなどに〈寄合〉場所として提供された。
山形はアートマーケットなど存在しないに等しい。だからといって、彼らは東京の〈規格〉に合わせることはしない。ミサワクラスの成立の契機は、そもそも不景気による家賃の下落にあり、Rコモンズは、地方都市の〈貧しさ〉は街に介入し、都市そのものをリサイクルするチャンスであることを知っている。徹底した〈シェア〉スタイルにより、物質的な豊かさよりもヘルシーな共有関係を選んだRコモンズ。ニヒリズムよりも諧謔的であろうとする態度に、よい意味で世代の断層を感じる。この小さな変革に注視していきたい。

宮本武典(東北芸術工科大学美術館大学センター主任学芸員)
※2010年度発行『Annual Report 〈制作ノート〉』から転載

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定点観測について

中心市街地にあらわれた「Rコモ
ンズ」を1人遠くから静かに見つめる人物がいる。Rコモンズという共同体がくりひろげる変化や成り行きを、夜空の星をながめるように見つめ、記録していきます。

宮本武典|観測者|東北芸術工科大学美術館大学センター・主任学芸員

キュレーター/東北芸術工科大学美術館大学センター講師・主任学芸員。いくつもの地域密着+復興アートプロジェクトを同時進行中。ミサワクラスとRコモンズの立ち上げ仕掛人。山形市在住&子育て中!